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 「嫌な気持ちとか、悲しい気持ちとかが入ってくるとすごく疲れるし、友達とか周りの人が本当はどう思ってるのかがわかっちゃうのって辛いよ」  それに―――、透はいっそう暗い声を漏らす。  「お母さんは、僕のこと怖いと思ってる」  「なんで、」  「普通じゃないから。お母さんはたぶん、僕に普通であってほしいんだ」  「普通ってなんだよ」  充はブランコから、勢いよく飛び降りる。  光平の話を全て理解したわけではなかったが、クラスメートと関わろうとしない理由があることや、彼がこれまで辛い思いをしてきたことはなんとなく想像できた。  そして、あの日、光平が自分のことのように泣いていた理由も。  「でも、だったらさ。俺は大丈夫なの?」  「充が?」  「いや、俺とこうやって一緒にいるのは大丈夫なの?」  「ああ、うん。充からは嫌な思いは入ってこないし、思ってることと見えてることが変わらないから」  「なんか俺バカみたいじゃん」  不満げに言う充を見て、光平は「そんなことないよ」と笑っていた。  「でも、このことは内緒にしておいて。あんまり知られたくないんだ」  「わかった。約束な」  二人は小さな小指を絡ませると、また明日学校で、と言い合って別れた。  翌朝、教室でちょっとした事件が起きた。とはいえ、二人にとっては大きな事件となる。  充が朝登校すると、クラスがいつもと違うざわめきに包まれている。何事かと思い、クラスメートの一人を捕まえ尋ねると、「花瓶が割られてたんだよ」という答えが返ってきた。  充たちのクラスには窓際に花を挿した花瓶が置いてある。それが今朝割られていたのだという。  そしてそれを最初に見つけたのが光平だった。  朝のホームルームで、先生から誰か何か知っている者はいないかと問いかけられると、生徒たちは非日常が訪れたことに対する興奮を隠せずにいた。  お前じゃねえの、誰だよ、花瓶なんか近くにも寄らないよ、など皆好きなことを言って騒いでいる中、光平が俯き震えていた。  そんな様子を見つけたクラスメートの一人が、誰よりも先に答えを見つけたように、嬉しさすらも含んだ声を発する。  「そういえば、黒井ってよくあの花瓶の近くにいたよな」  教室のざわめきが一瞬止むと、皆の視線が光平に集中する。
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