第三章

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 「ねえねえ、レイ」   「何だよ」  「変装するのはいいけど、何でこのお店なの?」   「何か不満か?」  「だってここ、男性用のブティックじゃない」   レイとミオは、ジェファーソンビルに着くと、まず変装に必要な物を買うことにした。そこでレイが選んだ店が、紳士服専門店であった。街のはずれにある小さな店で、他の客はあまりいない。ハーベック興業のお膝元であるため、関係者に見つかる前に変装用の衣服を買おうと、街の入り口のすぐ近くにあるこの店に入ったのだ。   「男性用の方が、ばれないだろう」   「だからって、何も男装しなくたっていいじゃない。あなたはいいけど、私は胸が大きいから、男性用だと、胸がきつくて……」  「ごちゃごちゃ言ってないで、早く服を選びなよ」   「はいはい、わかりました」ミオはそう言って店の奥に入っていった。  レイは洋服を自分の体に合わせて選んでいた。それを見かけた店主が、レイに声をかけた。  「あの……、お客様」  「は、はい、何でしょう」  「先ほどからお見受けしておりますと、お客様はご自身の体に合わせて服を選んでいらっしゃるようですが、失礼ですが、当方は男性用の商品を取り扱っておりますが、よろしいのでしょうか」  「あ、その、それは、実は私の彼氏の服を選んでるんだけど、私の彼氏って小柄なんで、私の体に合わせて選ぶとちょうどいいのよ」  「さようでございましたか。それは大変失礼しました。どうぞ、ごゆっくりお選びください」  「あ、ありがとう」  店主は頭を下げて離れていった。レイは大きくため息をついた。  やがてレイとミオは、変装に必要なものを一通り選んでレジに向かった。上着、ズボンに加えて、サングラス、帽子、ネクタイなどである。クレジットカードが使えないので、ブラント部長からもらった金貨で支払いを済ませた。  「お客様、こちらは現在サービスでお渡ししているグッズでございます。どうぞお受け取りください」先ほどの店主が、レイとミオにキーホルダーを渡した。ネコのキャラクターがデザインされている。  「まあ、かわいい」ミオが早速反応した。  「へえ、いいじゃない。ありがたくもらうよ」  レイとミオは商品とグッズを受け取ると、店を後にした。店主は深く礼をして見送ったが、二人が店を出ると、笑顔が消えた。そしてすぐに電話をかけた。
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