第三章

6/14
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
 リバーサイドホテルは、文字通り、川のそばにある。中規模のホテルで、宿泊客はそれほど多くはない。創業は古く、昔ながらの趣きが感じられるホテルだ。街の中心部から離れており、夜になると静寂に包まれる。  レイとミオは、このホテルに部屋をとった。捜査の拠点にしようとしたのである。ブラント部長からもらった軍資金はあまり残されていない。高級ホテルに宿泊する余裕ははないのだ。  部屋に入ったレイとミオは、今後の方針について話し合った。ハーベック興業の会長であるジョナサン・ハーベックの逮捕が目的だが、現時点で、レイとミオを殺害しようとした証拠はない。ブラント部長からそのように聞いているが、正式な指示ではない。そこで二人は、別件で逮捕する方法を選んだ。かつては庶民をだまして巨万の富を築いた男である。根気よく調べれば、何かしらのぼろが出るはずだ。それを足掛かりにしようとしたのだ。  ホテル内では男装の必要がないと判断したレイとミオは、それまで着ていた服に着替えた。あたりはすっかり暗くなっている。捜査は明日からにして、とりあえず夕食をとることにした。部屋を出た二人が食堂へ向かって歩いていた時である。  「はうっ」レイが声をあげた。  「何て声出してんの?」  「あの野郎」レイが振り返ると、10歳くらいの男の子が走って逃げているのが見えた。  「あの子がどうしたの?」  「あいつ、私のお尻をさわっていきやがった」  「あら、いいじゃない。どうせ、ほかにさわってくれる人いないんでしょ。むしろ、お礼を言わなきゃ」  「何言ってんだよ。くそ、あとで見つけたら、ただじゃおかないからな」  「まあまあ、それより、もう少し女らしい言葉を使ったほうがいいわよ」ミオは、レイをなだめるように言った。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!