第三章

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 ミオは神妙な面持ちで車を降りた。トーマスの店の前である。はっきりとした証拠はないが、この店でもらったキーホルダーに発信装置がついていたことが考えられる。だとすると、この店の店主がハーベックの手下ということになる。そこからハーベックの逮捕につながると考えたのだ。  ミオは大きく息を吸うと、ドアを開けて店内に入った。他に客はいない。レジには店主のトーマスがいた。少し離れたところに男性店員が作業をしている。  「いらっしゃいませ」トーマスが声をかけた。トーマスはミオの顔を見ると、驚いた顔を見せた。  「どうしたの? 幽霊じゃないわよ」ミオは笑ってトーマスに言った。  「あ、いえ、昨日来られたばかりなのにまた来られたので、少しびっくりしただけです。それで、今日は何をお求めで?」  「そうね、昨日もらったキーホルダー、まだあるかしら」  「あれですか、あいにく、もう品切れで……」  「そう、発信装置付きのものはもうないってことね」  「何を仰っているのかわかりませんが……」  「言っておくけど、私はFSPの捜査官よ。あなたを逮捕することもできるのよ」  トーマスは急に表情をこわばらせて言った。「あいにくだが、ここはジェファーソンビルだ。あんたは管轄外だろ」  「あら、私はFSPの捜査官としか言ってないわよ。どうして管轄外だとわかったの?」  「いや、その、以前にウェストシティーにいたので……」  「ふーん、私がウェストシティー支局の捜査官だということは知っているのね」  トーマスは軽く舌打ちをした。  「詳しい話は支局で聞きましょうか。連行だけだったら、管轄外でもできるわよ」  その時、ミオは背中に固いものが当たるのを感じた。もう一人の店員が、ピストルを当てていた。  「まず、腰の物を渡してもらおうか」トーマスはふうと息をついて言った。ミオは仕方なく腰にさしていた銃をカウンターに置いた。  「どうやら、行き先は支局からハーベック興業に変更になったみたいね」  「余計な事言ってないで、さっさと車に乗れ」トーマスはミオの銃から弾を抜きながら言った。  店員がピストルを強くミオの背中に押し当てた。ミオはあきらめたように店を出た。店員はピストルを背中に当てたままついてくる。うながされるようにして車に乗った。
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