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「それで、誰なんだ。私たちを殺害するように命じたのは」
「それは言えん。私にも守秘義務がある。それくらいお前にもわかるだろう」
「何だそれ。こんな事しておいて、相手が誰なのかも教えてもらえないのか」レイはテーブルを力まかせに殴りつけた。
「よしなさいよ、レイ。部長だって、つらい立場だったのよ」ミオはレイをなだめるように言った。レイとは対照的に、いわゆるお嬢様タイプで、言葉使いも丁寧である。
「私の部下がミオのような物分りのいい人間ばかりだったらいいんだが」ブラント部長はそう言って立ち上がると、部屋の隅にある金庫を開けて二つの袋を取り出すと、二人の前に一つずつ置いた。
「何だこれは」
「金貨だ」
「そんな事はわかっている。何の金だと聞いてるんだ」
「わからんのか。お前たちは死んだことになっている。ここにいてもらっては困るんだ。だから辞めてもらう。それは退職金だ」
「金で解決しようって言うのか」
「人聞きの悪いことを言うな。正当な退職金だ。黙って受け取れ」ブラント部長はそう言うと、部屋を出ていこうとした。
「どうしても教えてもらえないのか」レイは念を押すように聞いた。
「そう言っただろう。お前たちを殺害するように要求してきた人物が、ハーベック興業の会長のジョナサン・ハーベックだっていうことは、口がさけても言えんのだ。わかったら、それを持ってさっさと故郷に帰れ。いいな」ブラント部長はそう言って部屋を出て行った。残された二人は、しばらく顔を見合わせていたが、やがてどちらからともなく笑い出した。
「下手な芝居だな」
「そうね。でも、黒幕の正体を教えてくれたってことは、私たちに逮捕しろっていうことね」
「ということは」レイは自分の目の前にある金貨の袋を手に取りながら言った。「この金は退職金じゃなくて、そのための軍資金ってことか。だったらありがたくいただきましょう」
「うん……」
「ん? どうした、ミオ」
「ううん、何でもない」ミオは平静をよそおっていたが、心の中では、ブラント部長が言っていたハーベックという名前をつぶやいていた。
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