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やがて、一人、二人と教室を出ていき始めた。他のクラスの友達や先生と写真を撮ったり、最後の会話を楽しんだりしたい人もいるだろうから、それは止められない。少しずつ教室の中の人数が減っていき、三曲目が終わったところで、半分くらいが教室から姿を消していた。それでも彼は歌うことを止めない。
七曲目が終わったときには、もう私しか教室に残っていなかった。気がつけば、二年生のときの文化祭の前夜以来、久しぶりの二人きりという状況だ。私は落ち着かずに、立ち上がる。
そのとき、彼はそっとギターを傍らに置くと、
「ちょっと待って」
と私を引き止めた。私はまるで金縛りにあったように体が動かなくなり、その場に立ち尽くす。そんな私の所に、彼がゆっくりと近づいてくる。一気に心臓が激しく動き出し、掌が汗でびっしょりになる。
「たぶん、最後まで残ってくれると思ってた」
彼は私の正面に立って言った。私は黙って頷く。
「ねえ、俺の作った曲、どうだった?」
「よかった……と思う」
「そっか、安心した。聞き苦しかったらどうしようって、少し心配してたんだ」
「全然聞き苦しくなんてなかったよ!!」
「そっか。俺ってなかなか歌うの上手いでしょ?」
私はまた黙って頷いた。
でも、このままじゃいけない。せっかく最後の最後に巡ってきたチャンスだ。これを逃すと、本当に彼と近づく機会なんてなくなってしまう。私は必死に勇気を奮い立たせ、口を開く。
「ね、ねえ。どうして卒業式の日に歌を歌おうって三年間も思っていたの?」
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