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声を上げたときには、サンドイッチは地面に落ちていた。
「あーあ、もったいないことしちゃったな」
そう呟いて、落としたサンドイッチを拾おうとすると、どこかからニャアと猫の鳴き声が聞こえてくる。どこにいるのだろうと公園の中を見回すと、私の座っているベンチの下から、真っ黒い猫が姿を現した。猫は一瞬だけ私の顔を見てから、サンドイッチにかぶりつく。私はサンドイッチを拾うのを止め、猫が食べる姿を静かに眺めた。
猫が半分ほどサンドイッチを食べたところで、誰かが公園に入ってくる。それが彼だった。彼は真っ直ぐに私の方にやって来て、
「これ、君があげてくれたの?」
と尋ねてきた。
「う、うん。そうだよ」
私は答えてから、改めて彼を見た。その瞬間、私の心臓はドクンと激しく音を立てる。私の理想がそのまま目の前に立っていた。これで恋に落ちないほうがどうかしている。
彼は私の隣に腰を下ろしてから、
「ありがとう」
と礼を言った。私は上手く言葉を発することができずに、黙って頷いた。それと同時に、きちんと身なりを整えて出てこなかったことを後悔する。“こんな出会いがあるのならちゃんとしてきたのに”と、思わず心の中で呟く。
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