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「この猫、野良猫なんだけど、怪我をしててさ。ずっとここで面倒を見てたんだ。家で飼えれば一番いいんだろうけど、父が猫アレルギーでね。だから、毎日エサを持ってきてたんだ」
「そ、そうなんだ」
「うん。でも、もうそれも終わりだな。すっかり怪我も良くなったみたいだし、いつまでもエサをやり続けるわけにもいかないしね」
彼はそう言うと、猫の頭を優しく撫でて、公園を出ていった。私はしばらく彼の余韻に浸っていた。名前くらいきいておけば良かったと思ったりしたけれど、そんな余裕があったはずもない。翌日、入学式で彼の姿を見つけたとき、私は一瞬、運命めいたものを感じた。だけど、マンガやドラマのように、都合よく恋が実ったりするはずもない。
体育館の中にピアノの音が鳴り響き、前奏に続いて『仰げば尊し』の合唱が始まる。歌に混じって、あちこちから鼻を啜る音が聞こえてくる。私の目からも、涙が一筋の線を描きながら零れ落ちる。おそらく、泣いている人たちは、この三年間の様々な思い出が頭の中に蘇っているのだろう。
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