Graduation

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 だけど、私は違う。私の涙は後悔の涙だ。もしもほんの少しだけ勇気を振り絞って彼に話しかけていれば、もっと違った三年間を送れていたかもしれない。部屋の壁に貼った彼の写真に話しかけながら、悶々とした想いを抱きながら日々を過ごすことはなかったかもしれない。だけど、今更悔やんでみたところで、もう遅すぎる。時間は巻き戻せないし、明日からは教室で顔を合わせることもなくなるのだ。  三年間のうちで最高の思い出は、高校二年のときの文化祭だ。私はラッキーなことに、彼と同じグループで作業をすることになった。グループリーダーの彼は、誰彼分け隔てることなく接するし、気さくに声をかけて回る。もちろん、私も話しかけられた。今にして思えば、あのときこそ、彼と近づくチャンスだったはずだ。だけど、どんなふうに喋ったらいいかわからない私は、彼を避けるような態度を取り続けてしまった。  文化祭の前夜、最後の追い込み作業をしていたときのことだ。私はみんなの夜食のカップラーメンを作るためにお湯を沸かしていた。そのとき、そばで作業していたクラスメイトが動かした看板が薬缶(やかん)にぶつかる。危ないと思った瞬間、薬缶が私の方に倒れてくる。 「危ない!!」  離れた所から彼の声が聞こえた。私は何とか体を翻して薬缶を避ける。それでも、激しく(こぼ)れたお湯が、少しだけ私の腕にかかった。 「熱っ!!」  私が声を上げるのと殆ど同時に、彼が駆け寄ってくる。 「大丈夫か?」 「うん、大丈夫」  私は短く答える。こういう時ですら、彼とは上手く会話できない。 「とにかく冷やそう」     
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