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「2人しかいないのにホールとか」
「朝子もだろ。考えることは一緒だな」
顔を見合わせて苦笑いする。
「10年間ありがとう。これからも、俺のとなりにいてください」
孝之が朝子を抱きしめる。
「孝之……」
朝子も孝之の胸にゆっくり顔を埋める。
「私は、孝之のとなりに居られたら何も要らなかった。今でも、その気持ちは変わらないよ」
ゆっくり、言葉を探す。
「でもやっぱり……孝之との赤ちゃんがいてくれたらいいな」
「うん……」
ただかわいいから、子どもが欲しいわけではなく。
周囲の人が子どもを産んでいるからとか、誰かに言われたから、でもなく。
貴方との子どもが欲しい、と、朝子は初めてきちんと伝えられた気がした。
「朝子が通院や治療で追い詰められたらと思うと、辛かった。でも、俺も同じ気持ちだよ。もう少し、納得できるまで頑張ってみよう」
「うん……ありがとう」
「どんな時も、一緒に考えよう」
つないだ手に涙が落ちる。
いつの日か、私達のとなりにもう1人新しい命が来てくれるかもしれない。
来ないかもしれない。
未来のことはわからなくて、怖いけれど。
朝子はそっとラベンダーの枕を撫でて、前を向いた。
「孝之にプレゼントを買って来たんだよ。腕時計」
「えっ。本当?」
「今日ショッピングモールでね……」
「俺も良いもの買って来たよ」
「えー!何何?」
もう涙は無かった。
迷う度に2人で戻ろう。
一緒に生きようと誓った日に戻ろう。
どんな時だって、暖かい思い出が力をくれる筈だから。
キッチンに向かう2人を窓辺から月明かりがやさしく照らしていた。
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