0人が本棚に入れています
本棚に追加
グルメな悪魔のひと工夫
部屋の隅の暗がりから悪魔が現れた。
天井の高さや部屋の広さなど無視して、俺の頭上に聳え立つ。
頭の両側から生えた捩れた角が、尖った耳の脇を通って顎まで伸びている。
黒目しかない切れ長の眼で俺を見下ろし、悪魔は言った。「さあ、お前の魂をよこせ」
腹の底に響く重いバリトンだ。
「どうした? 貴様の願いは叶えてやったではないか」
「俺の願い?」
俺にはさっぱり何のことか分からない。
「分からないのか。手を見ろ」
「手?」
俺は自分の両手を見た。赤黒い液体で真っ赤に染まっている。
――これは?
「足元を見ろ」
視線を下に向ける。
そこには、父と母が横たわっていた。折り重なるように倒れ、体のあちこちから血を噴き出して――死んでいる。
「だ、誰がこんなことを……?」
血溜まりの中に鈍く光る包丁が転がっている。
悪魔はせせら笑った。「お前は言ったではないか。鎖を断ち切る勇気が欲しいと」
「俺が?」
混乱する思考は焦点を結ばず、うまく記憶を探ることができない。
俺は悪魔の言葉を反芻した。
鎖を断ち切る――。
勇気が欲しい――。
「ああ……」
最初のコメントを投稿しよう!