グルメな悪魔のひと工夫

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グルメな悪魔のひと工夫

 部屋の(すみ)の暗がりから悪魔が現れた。  天井の高さや部屋の広さなど無視して、俺の頭上に(そび)え立つ。  頭の両側から生えた(ねじ)れた角が、(とが)った耳の脇を通って(あご)まで伸びている。  黒目しかない切れ長の眼で俺を見下ろし、悪魔は言った。「さあ、お前の(たましい)をよこせ」  腹の底に響く重いバリトンだ。 「どうした? 貴様の願いは叶えてやったではないか」 「俺の願い?」  俺にはさっぱり何のことか分からない。 「分からないのか。手を見ろ」 「手?」  俺は自分の両手を見た。赤黒い液体で真っ赤に染まっている。  ――これは? 「足元を見ろ」  視線を下に向ける。  そこには、父と母が横たわっていた。折り重なるように倒れ、体のあちこちから血を噴き出して――死んでいる。 「だ、誰がこんなことを……?」  血溜まりの中に鈍く光る包丁が転がっている。  悪魔はせせら笑った。「お前は言ったではないか。鎖を断ち切る勇気が欲しいと」 「俺が?」  混乱する思考は焦点を結ばず、うまく記憶を探ることができない。  俺は悪魔の言葉を反芻(はんすう)した。  鎖を断ち切る――。  勇気が欲しい――。 「ああ……」     
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