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以来、時々同じようなことが起こるようになった。
電車で座っていると、隣に誰も座らない。
どんなに混んでいても、Iさんの隣に誰かいるかのように避けられてしまう。
隣には誰もいないにも関わらず、である。
飲食店に一人で入っても、水が二つ運ばれてくる。しかも、水が置かれるのは決まってIさんの隣だ。
他にも子どもに手を振られる、隣に向かって笑いかけられる。
頻繁に起きる訳ではない。しかし、何度も同じことがある。
隣に何かいるらしいが、Iさんには全く見えない。
他の人に聞いても、首を傾げるだけで要領を得ないのだという。
そんな事が続いた、ある日の事だった。
その日、Iさんは電車に乗っていた。
最初は乗客も少なかったが、徐々に増えていき、やがて満員状態になった。
しかし、どれだけ人が増えても、Iさんの隣は一席分空いたままだった。
またこのパターンかとうんざりしていると、いつかのように親子連れが目の前に立った。
今度は女の子だ。疲れているのか、少しぐずり始めている。
どうせ空いたままなら、譲ってしまおう。
そう考え、Iさんが立ち上がろうとした時だった。
女の子はIさんの隣を見るや、火が点いたように泣き出した。
まるで、何かに怯えているような、そんな様子だと言う。
宥める母親の後ろに隠れ、女の子はしきりに
「まっくろ」
と繰り返し、泣いていた。
「それからは無いですね。泣かれることも隣が空くことも」
話を聞かせて貰った喫茶店で、Iさんはそう言って隣を見た。
運ばれてきたグラスも二つで、隣には何もない。
「どっか行っちゃったんですかね」
笑うIさんの後ろで、真っ黒な何かが見下ろしていた。
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