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前から不気味な男が歩いてくる。
後ろばかり気にしていて、前は全く意識していなかった。
俺はとっさに急いですれ違おうと、小走りになった。
男は、俺の目の前に立った。
「っ…アキラ」
「久しぶりだなぁ。『ネコちゃん』…」
鞄の中のナイフに手をかけた。
「落ち着けよ。俺は今ここでお前を殺そうとは思ってねぇから」
「…二人も殺した男の言葉が信じられるかよ!!」
「まぁ待てよ。ここで俺を殺したって、殺しきれる保証もない。罪に問われて、一生あきなに会えず終わる。それじゃあダメだろう?自殺に見せかけるの、結構大変なんだぜ?それに…何か忘れていないか?」
「…忘れてる?」
「あきなに電話、繋がらないだろう…?」
「…っ!!??アキに何をした!!!」
「落ち着けよ。俺についてこい。いいモノ見せてやるからさ」
アキラは、錆びれた、狭い、汚いアパートへ連れて行った。
そこには…。
「アキ!!!!」
「ネコちゃん!!!」
手足を拘束されたあきながそこにいた。
「お前ら甘ちゃんすぎるんだよ。殺そうとするなら、常にずっと警戒しろっての」
「…ふざけんな!!アキに手を出すなこの外道が!!」
すると、大坂はあきなを蹴り飛ばした。
「うるせぇんだよ!!それ以上喚くならこの女を殺すぞ!!!」
「…うぅ」
アキは短く声をあげ、うずくまった。
「…分かったよ。何が望みだお前」
「…モノでもなんでもねぇ。交換条件ってやつだ」
「…?」
お前がこの場で俺に殺されるなら、あきなを解放する。そして俺も自殺しよう。あきなに殺させてもいい。
それが出来ないのなら…この場であきなを殺す。そのあと俺も死ぬ。
どっちにしろ俺は死ねる。
悪い話じゃ無いだろ?
さぁ、どうするよ金子。
「…お前がアキを解放することが信じられない!!」
「俺は約束を守る。お前が死ぬと約束するなら、お前を拘束して、先にあきなを解放したっていいけども?」
死を覚悟した人間の言葉は、重かった。
「ダメだよネコちゃん!!死んじゃダメ!!」
「…なるほどな。アキラ。俺を拘束しろ。そしてアキを解放しろ。」
「やめて!!!」
「物分かりが良いじゃねぇか」
アキラは俺の手足を結束バンドで拘束し、アキの拘束を解いた。
「ネコちゃん!!ダメだよ!!」
あきなは、祐介に飛びついた。
「言っただろ。死ぬ覚悟は出来てるって」
「でも…!!」
「離れろあきな。じゃなきゃ2人共殺すぞ」
「それでも良い!!ネコちゃん死ぬなら、私も死ぬから!!」
「ダメだアキ。俺が死んだら、すぐにアキラを殺してくれ。俺は君が生きて、こいつが死んでくれればそれで満足だ」
「そんな…」
それでもあきなは離れなかった。
すると大坂は、またあきなを殴り、無理やり引き剥がした。
そして、外へ追い出し、内側から鍵をかけた。
「さて、それじゃあ、共に死んで行こうか」
「最後に一つ聞きたいんだ。それくらい良いだろう?」
「あ?あぁ、構わない」
アキラ。お前はアキのどこが好きだ?
…?俺は理屈じゃなくて、直感であきなを好きになった。だからどこが好きって言われても、答えられねぇ。
そっか。俺はなぁ、アキの────
結ばれたはずの、祐介の手が解かれた。
その手で持ったナイフで、足の拘束を解いた。
俺はアキの笑顔が堪らなく好きなんだよ。
おい!!なんで拘束が解ける!!
お前のせいで…アキの笑顔が消えたんだ。
…おい…やめろ!!やめろ!!
俺は、手でアキラの首をつかんだ。
アキラは持っていたナイフを落としたが、必死に抵抗する。
殺す準備がされていたのが救いだ。
広げられたブルーシートの上に転がし、息の根を止めた。
手についた泡を拭き取り、ドアを開けた。
「ネコちゃん!!??」
「ただいま。見てみろよ。殺してやったぜ」
「でも…どうやって??」
「体の後ろで拘束したのが運の尽き。結束バンドは、思いっきり尻に引き付ければ、弾け飛ぶんだよ」
「良かった…」
あきなは、大坂の死に様を見ると、少し引きつりながらも、安堵の表情を見せた。
死体の処理をせねばならない。
体を折り曲げ、校庭に引くような石灰をまぶし、ブルーシートでくるんで、麻縄で縛る。
アルミホイルや、ビニールシートで何重にもくるみ、層の間にも、石灰をまぶした。
最後に大きなビニールシートで包むと、失禁の臭いは外に出てこなくなった。
「あとは、こいつをどうするか…今日一晩はここに置いておかないと」
「ずっとここに置いておくわけにもいかないもんね」
「そうだ。良い方法がある」
高校生時代、神奈川の田舎の方に出向き、友達と廃墟の探索をしたことがあった。
あの廃墟、当時入口の鍵を壊したから、中に自由に入れるはずだ。
俺はレンタカーを借りて、アキとアキラの死体を乗せて、その廃墟へ出向いた。
やはり、鍵はかかっておらず、変わったところといえば、よりボロくなったことくらいだろう。
この廃墟に、人が立ち入ることは滅多にないということだ。
床が抜け、底の土が見える部屋を見つけた。
その土を掘り返し、ブルーシートでくるんだアキラの死体を、アキと共に持ち上げ、埋めた。
「これで、もう怯える必要は無くなったな」
「うん…そうだね。本当に、ありがとう」
アキは、俺が大好きな顔で笑った。
君となら、なんでも乗り越えられそうな気がするんだ。
たとえこの先が暗闇だとしても。
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