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ジリジリとした暑さが肌を痛める、大学一年の8月。
金子 祐介は、クーラーの効いた小田急線の快速電車に乗り込むと、背中の汗を気にしながら座席に座った。
部活動の合同練習帰り。
同じ車両に乗る数人の部員、皆同じように疲れた様子で、座っていた。
特に言葉も発さず、気付けば、降りる町田駅の2つ前、海老名駅に到着する手前だった。
どうやら、寝ていたようだ。
腹の底から蘇ってくる、懐かしい感覚。
そういえば、元カノの通ってた高校は、このそばだったっけ。
人は何を感じて、こうもイレギュラーを思ってしまうのか。
電車の開いたドアから、若干の熱気と共に数人の乗客が乗り込んでくる。
そろそろ席も埋まってくるかな、と考えた時、目の前に誰かが立って、影で暗くなった。
思わず上を見上げた。
元カノが笑っていた────
「ネコちゃん、久しぶり」
「アキ…」
池畑 あきな。
同い年で、元カノ。
俺が通う大学から、そう遠くはない大学に通っている。
中学から高校にかけて付き合っていたが、高校は別々で、気付けば向こうに彼氏が出来て、自然消滅した。
だが変わらない呼び方を、少しだけ嬉しく思った。
急に俺が女子と話し出したから、周りに座っていた部員は何だかにやけ始めた。
まぁ、アキは悔しいがかなりの美人だ。
こんなんと普通に話してたら、茶化されてもおかしくはない。
「偶然だね、部活帰り?」
「あぁ。そうだよ。そっちは…どうしたの?」
「高校の講談会に呼ばれたの。進路学習で、上級学校行った人が呼ばれるんだよ」
そっか。
そういえば、元カノは信じられないくらい頭が良かった。
顔も良くてスタイルも良くて、おまけに頭が良くてって…
なぁんで俺はこんな非の打ち所が無い子を手放しちまったんだ…?
というかなんで付き合えたんだよまず…。
「ずっと会ってなかったのに、よく分かったな」
「そりゃあ…好きな人だったし?見たらすぐに分かるくらいにはなってるよ…」
好きだった、という言葉に、少し鳥肌が立った。
「…彼氏とは、上手くやってるの?」
「あぁ…。なんか、ごめんね…。連絡もしなくなったから、自然消滅だなって思って…」
「それは気にしてない」
「…別れたよ。なんか、違った。」
俺は元カノの目の奥に、なぜか怯えを感じた
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