溺愛

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「…そうか。結構、長かったろ」 「うん…。でもだんだん束縛ひどくなって。それで嫌になっちゃった。最後は、他の女のとこ行っちゃったしね」 「…なんかあったのか?元気ないだろ」 「…ちょっと、こっち…」 祐介はあきなに手を引っ張られ、周りに人が少ないドア付近に連れて行かれた。 それを見て、部員はいよいよ何事かと、期待と羨望のまなざしで彼を見ていた。 「…頼みがあるの。びっくりすると思うけど…」 「アキの頼みなら…」 「…ネコちゃん、中学の時の、大坂明覚えてるでしょ?」 「アキラ…?覚えてるけど、そいつが?」 「付き合ってた頃、実はずっとストーカーを受けてたの。」 「…は?」 「…高校に入って、毎日のように連絡が来ることはあっても、姿は現さなかった。だから、連絡手段もすべて絶って、解決したかと思ってた…」 「…」 「それでさ、それで…前の彼氏と別れて…翌日、バイト先に来たの…。とても偶然とは思えなくて…」 「アキの元カレのことは?」 「知らない。はず。でも…その時あいつは…『やっと自由になれてよかったね』って、笑ったの。『君を苦しめるなんて、ひどい男だ。そいつも苦しめばいいのにな』って…」 一気に鳥肌が立った。 そのストーカー被害に悩んでいて暗いのか…? にしては、暗すぎるような気もするが…。 それに頼みって…。 以前を知っているからこそ、アキのオーラの変わりように違和感を覚えるばかりだった。 「なぁ、見た?昨日大学生が死んだってやつ。自殺で」 「あ、あれ、内の近所なんすよ!しかも、先月は高3の子が2人くらい自殺してましたよね…」 反対側のドアの前で話すサラリーマン2人の会話が耳に入る。 そういえば、今朝のニュースでやってた。 俺が住む場所で、殺人事件や自殺なんて残念ながら珍しいものではない。 ただあまりに近所で、同い年が死んでいたことにはさすがに驚き、やや恐怖を感じた。 それも、今年に入って地元で年齢の近い人間が死ぬのは三度目だ。 元カノの方を見ると、なぜか不気味に微笑んでいた。 駅に到着し、2人並んで電車を降りる。 「…さっきの人たちの話、聞こえた?」 「…あぁ…。なんか、怖いよな…」 「…ね。怖いよねぇ。」 なんだか、元カノが怖い。 「…なぁ、大丈夫か?なんか…様子が…」 「怖いよねぇ。元カレが殺された翌日に、高校の進路学習行けてる私って」 はっと振り向くと、あきなは、涙を流していた。
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