溺愛

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「くっそ…。引っ越したのか?もしくは名字が変わったか…」 「…そういえば、大坂って母子家庭じゃなかったっけ?」 「あぁ。そうだ。引っ越したり、名字変わってる可能性は否定できないか…」 いよいよ行き詰まった、というその時、あきながパっと目を見開いた。 「そうだ!!いい方法があった…」 またあきなは、不気味に微笑んだ。 「私のSNSを使うの。ネコちゃんには…少し危険を犯させるけれど…」 「そういうことがあるって覚悟はもう十分出来てる。心配するな」 「…ありがとう」 まずは、ネコちゃんがどこかしら、客と接せられるバイトをする。 そこに私が行き、ネコちゃんと何らかの関係があるような投稿をする。 ほぼ確実に投稿を見てるであろう大坂は、何かしらの行動を見せるかもしれない。 「なるほど…大坂はアキの投稿を見れる状態なの?」 「今ブロックしてるけど、そのアカウントは消えてた。多分、無関係に見える偽アカウントで、ほぼ毎日確認はしてると思うの。だから鍵をかけてる。その鍵、解除すればきっと…」 「俺とアキが会っていたことが分かる投稿をして、そこにアキラが食いつくよう餌を巻くってことか」 「そゆこと。ただ大坂がどう出るかは分からない…。だから、危険な目に合わせるかもって…」 「構わない。君のためなら殺せるし、死ねる」 「やめてよ。もう大坂以外誰も死なないで」 「大丈夫。すぐに仕留めるさ」 すぐに行動に移す。 まずは駅からほど近い、レストラン『home』にアルバイトとして申し込んだ。 アキの思いつき一つで、バイトを始める俺も彼女への溺愛が過ぎるか、なんて思いながら、面接へ出向いた。 「志望動機はなんですか?」 死亡動機です、なんて言ったらこの人はなんて思うだろう。 思ってもいないようなことを、適当に御託を並べてそれらしい文章にして、人手不足だから助かる、とその場で採用が決まった。 面接なんて形式的なものなのだろう。 「バイト決まった。とりあえず土曜の夜入ってる。やるか?」 「了解、やろう」 土曜、夜8時──── 「お席へご案内致します」 「…様になってんじゃん」 「物覚えは良い方なんだ」 そんなに大きいわけでもなく、これと言って有名なレストランでもないから、客と多少駄弁っていても混雑していなければ怒られない。 アキはメニューが出されると、携帯を出して写真を撮った。 「これで、今夜上げる」 「勝負は来週かな」 「うん、それじゃあ、お疲れ様」 『今日はネコちゃんがバイトしてるhome行ってきた!毎週土曜の夜はバイトしてるんだって!毎週行っちゃおうかな〜(笑)』 「あざとい」 「しょうがないじゃん、突っかかってもらわなきゃいけないんだし」 まだ、今引き返せば、俺は犯罪に手を染めないで済む。 このままアキラが来ようが来まいが、俺はただアキラを警戒しつつ、逃げるように。 絶望に顔を歪ませるアキを無視して生きれば、俺は裁かれることは無い。死ぬこともない。 この手を汚すことはない。 …ただ、それを俺は選ぶつもりもない。 本気で死んで良い。裁かれて良いと思っている。 アキのためなら。 池畑 あきなという人間は、どうしてこう人を狂わせる。 ある意味歪んだ愛を、俺は深める。 俺の人生がどうなったって良い。 ただ、彼女を愛しているから。 彼女に近づく魔の手の息の根を止めてやりたい。 俺は、引き返さない。 法と、世間と。 殺人鬼と、罪悪感と戦い続ける。 覚悟は出来ている。
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