襟足

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「はぁ…」 すぐ目の前にある、すべすべとしたうなじをぼんやりと眺めてため息を吐く。帰り仕度をしているために頭を折るその姿勢だと、無防備なそのうなじは、見えるというより晒されているも同然だ。 そのうなじは、昨日までは見ることができなかったもので、見たかったはずなのに、いざそれを邪魔していた襟足がないのは物足りないと思ってしまう。 目の前に座るその人は、俺のため息が聞こえたのか、こちらを振り返る。目が合うと、頬杖をついている俺の顔を見て楽しそうに微笑む。 「なに、まだ不貞腐れてるの」 「不貞腐れてちゃ、悪い?」 語尾を投げ出すような口調で、いかにも機嫌が悪いといった表情も添えて返事をする。俺は朝から機嫌が悪い。理由はただ一つ、彼が俺の知らぬ間に髪を切っていたから。それがなんだと思うだろうが、俺は彼の髪が好きだ。もちろん、彼自身のことも大好きだが。柔らかくて、絡まることを知らないようにサラサラとした栗色の髪は触り心地が良い。何かに付けては彼の髪を触って、毎日彼の髪の状態をチェックするのが日課と言ってもいい。
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