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「知ってたよ」
「……!」
驚きで顔を上げた私の目に入ったのは、優しげに笑う彼の顔。
返事をしたいのに、気持ちが上手く言葉にできない。
知ってたって? いつから知ってたの? そして……どう思ってるの?
言葉にならない想いは、たぶん表情に出ていたのだろう。
彼はまたクスリと笑んで、あまりにも自然な動作で引き寄せる。いつ腕を掴まれたのか、いつ囲われたのか、全く記憶にない。
でも、これだけは確かだった。
彼の鼓動がすぐ傍で聞こえる。温かい体温が伝わってくる。
そして、静かに落ちてくる柔らかい声。
「僕も、好きだった」
その後、彼の腕に微かな力がこもる。
その力が私に現実感をもたせてくれる。じわじわと込み上げてくる気持ち。
私は、ゆっくりと彼の背に腕を回した。
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