一章

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着いた部屋は華生ではなく一彬の部屋だった。 「少し待っていろ」 一彬のベッドの上に下された華生は、彼がいなくなった後所在無さげに彼の部屋を見渡す。 何も変わってない。 本棚に入っているビジネス書も、机の上に整理された資料も。クリーニングから戻ってきたばかりのタグがついたスーツは、見たことがない気がする。 なんだか、緊張する。 昔は自分から遊びに来ていたのに、今の自分はお客様みたいだ。 キイ、とドアが開く音に振り向くと、一彬が救急箱を持って戻って来た。手当までしてくれるなんて、今日の彼はなんて甲斐甲斐しいのだろうか。 「ん」 割れた爪の間に、脱脂綿に付けた消毒液を塗る。一彬のいかにも素人らしい手当の仕方を見ると、気恥ずかしい気分になる。 「えっと、ありがとうございます。兄様」 「あぁ」 一彬は素っ気ない返事を返しながら、華生の足の手当を続ける。 「……応急処置だが」 華生の足の出血部分に絆創膏を貼り終わった一彬が顔を上げた。 「ありがとうございます」 華生は落ち着きなく目をキョロキョロさせる。 「どうした」 「あの、お父様とお母様に挨拶しなきゃ……」 深夜一時をまわっているが、彼らが起きているなら一言かけるのは礼儀だろう。しかし一彬は首を横に振る。 「今日はいい。お前も疲れているだろう」 「疲れているって、挨拶もできないくらいでは」 「構わんだろう。今日は休め」 「そうは言っても」 「……少し聞き分けがなくなったな」
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