3

1/4
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ

3

佐渡は夕日が眩しい顔を顰めて車から降りた。  不精髭に悪人面の佐渡は警視庁の警部である。  四十後半、独身の彼の背広はどことなくよれっていた。 「お疲れ様です、警部」  所轄の丸川刑事が敬礼で佐渡を出迎える。 「ん。情況は?」  そう訊ねながら佐渡は現場に目を向けた。  そこには遺体を象った白いチョ―クの線、そしてその頭部辺りにまだ乾き切っていない鮮血が広がっている。 「はい。被害者は田中さやか、十五歳。市内の私立高校に通う高校生。あそこのデッキから転落し、頭から落ちて即死したようです。転落する直前、被害者が一人でよろめいているところを多数の人間が目撃しているところから、事故の可能性が高いと思われます」  それを聞き佐渡が悪態を吐く。 「なんだ、事故かよ? わざわざ、俺が出張ってこなくてもよかったじゃねぇか」 「いえ、それが被害者の転落を目の前で見た連れの女子高生が妙なことを言ってまして」 「妙なこと?」  丸川の言葉に佐渡は眉を顰めた。とかく佐渡の顔は常に不機嫌そうに見える。 「ええ、こっちです」  佐渡は丸川に連れられ階段でデッキを上がる。  被害者が転落した場所より離れたベンチに一人の女子高生が打ち拉がれて腰掛けていた。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!