初恋葬送

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嬉しかった。 君と心が通じ合えたこと。 突然、世界が鮮やかに彩られた。 初めての色。 初めての煌めき。 あぁ、世界は、こんなにも綺麗なのだと。 君の一挙手一投足で、胸が躍る。 からかわれても、弄ばれても、目を離せずに。 声を逃すまいと、耳を立てて。 名前を呼ばれるだけで、心臓が甘く痺れる。 君が中心の世界が、愛しくて、美しくて、 幸せだった。 それが例え、束の間の夢だったとしても。 あぁ、世界が色を喪っていく。 灰色の景色。 もう何にも胸は躍らない。 きっと、心臓を奪われたから。 そうだ。きっとそうだ。 この身体はもう、鼓動を失ってしまったのだろう。 脈打つ理由を失ってしまった。 笑ってほしい。滑稽だと、嗤ってほしい。 君なしの世界では呼吸すら出来ない、私の姿を。 だから、ねぇ、からかってよ。 何も感じない、無痛の世界。 それでもいつかはまた、血液がこの身体を巡って、感覚を取り戻す。 そのとき、私は痛みに堪えられるだろうか。 二度と届かないあの美しい世界を、愛せるだろうか。 ーー遠くで、誰かが、大丈夫と言った気がした。 痛みを忘れるように、ヒトは出来ているらしい。 やがて心臓を取り戻した身体が、痛い苦しいと涙を流しても。 流した涙は、過去になる。 少しずつ遠ざかる君を、見送れなくても。 何処か遠くで、声がする。 少しずつ、でも確実に近付いてくる声。 ーーあぁ、そうか。 遠くにいる私が、微笑みながら言う。 痛みは、消えていくのだと。 輝いていた世界は、灰色のまま時を止め。 くりぬかれたモノクロームのように遠ざかる。 今はまだ、君の睫毛が見えるくらいには、あの景色が胸を抉るけど。 この世界は、此処に置いていく。 ただひとつの季節も越えられなかった、時の狭間に。 さようなら、私の初恋。
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