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打ち合わせから戻ると、ちょうど近藤も戻るところだったようで、廊下の先に小さな背中が見えた。小動物のようにぴょこぴょこと歩くのを見て、つい、笑いが漏れる。
声をかけようとしたら、なぜか近藤のほうが俺に気づいてふりむいた。
「あっ! 先輩ッ、ヤマダ商事さんとの打ち合わせ場所、わかりました?」
問いかける近藤は山のように抱えたドッチファイルに埋もれかけている。その姿に呆れて、俺は後輩を叱りながら、脇からいくつか奪いとる。
「わかったが、小会議室を押さえてあったことくらい気づけ。あと、メモ残すときは必ず記名しろ。教えただろ?」
「私だって、すぐに用事があって、切羽詰まってたんですよぅ! っていうか、先輩こそ、お説教より先に、言うことがあるんじゃないですか?」
ぷんすか言って、近藤は子どもっぽく頬を膨らませる。ハムスターか、お前は。
頬をつついて、空気を抜いてやりたい衝動に駆られながらもこらえきる。俺は近藤を追い抜いてデスクまでファイルを運んでやると、自席に向かった。
メモの礼は、もう言った。礼は重ねるものではない。一回でいいのだ。
自分の資料も自席へ置いて、缶コーヒーを買いに離れる。熱い缶をもてあまして帰ってくると、デスクにたどり着いた近藤はまだ、そこに立ったままだった。ファイルはデスクに積み上がり、右手に例の付箋を持っていた。
いつになく真剣な目だった。付箋に見入る近藤は、驚いたような、虚をつかれたような顔をしていた。どうしたんだ? と、問いかけることさえ憚られる。
俺は歩みを緩め、近藤の横顔を見つめた。
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