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 ぼんやりと、その気もなく漫然と聞いていたラジオから、やがて六時の時報が告げられた。  と、ほぼ同時に襖の向こう側から、あの老人の声が聞こえてきた。 「ほい、ごめんよ」  どこか弾んだ、楽しげな調子。  すぐに襖が開き、あの老主人が黒塗りのお膳を持って入ってきた。 「どうだんね。そろそろ腹も減って来とるじゃろ」  弾んだ口調の主人の声を聞きながら、氷室はゆっくりと起き上がった。  眼鏡をかけ直した目で見る主人の顔は、人の好さそうな笑みで満杯だ。  恵比須顔、というのはこういう顔を言うのだろうか。  そんなことを考えた氷室も、つられて笑みを返す。 「ああ、ありがとうございます」 「山奥のこって、ええ、大した物もありゃせんが、遠慮のう食べとくれや」  そう言って、主人が座卓にお膳を置いた。  見れば、お膳には珍しい山菜や岩魚が載せられ、それに街では滅多に食べられない鹿だか猪だかの肉まで添えてある。  漆塗りのお櫃から茶碗に白飯を盛り、夕餉の準備を整えた主人が氷室に言う。 「一時間したら、また戻って来るで、ゆっくり食べてとくれ。何の遠慮も要らんでな。わしがお酌したげてぇだが、はあ」     
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