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 雪灯りのせいだろうか、カーテン越しの窓がぼんやりと白く光って見える。  レンズを外した目で天井を眺める氷室には、ものを考える気力はない。  今はもう、ただ全てを忘れたい。  しかし、忘れようとすればするほどに、思い出したくない事ばかりが記憶の果てから追いすがってくる。  寝返りの数だけ憔悴は深くなり、眠りが氷室から逃げてゆく。  ほとんど微睡むばかりの内に時間は過ぎ、カーテン越しのかすかな光から、藍色が抜けてきた。    氷室は起き上がって眼鏡を掛けると、ゆっくりと布団から抜け出した。  カーテンをわずかに除けると、薄黄色くなった障子が、仄白い光を映している。  氷室は障子を開けてみた。  ガラス窓の向こうに雲はなく、濁りのない透明な青が、空を塗り潰している。  太陽は見えない。  しかし、澄み切った陽光に、積もった雪は無垢な白銀に輝いている。  ちょっと痛む両目を軽く擦り、氷室はふとつぶやいた。 「今何時だろう……」  と同時に、彼は聞き慣れた足音が近付いてくるのに気が付いた。  程なく足音は襖の向こう側で途切れ、穏やかな老人の声が聞こえてきた。 「おはようさん」  温かみのある挨拶に続き、襖が静かに開いた。  顔を覗かせたのは、あの老主人だ。 「ああ、おはようございます。」     
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