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 くたびれたブルージーンズの裾も、ぐっしょりと濡れて紺色が鮮やかに蘇る。  重苦しさを感じつつ、ひたすらに坂道の雪を踏み締める彼。  その顔に表情は浮かばない。ただ真っ直ぐに、枝道の彼方で雪霞に包まれる山を見つめている。  坂に厚く積もる白紙の雪に、自分の足跡を点けるだけの彼は、やがて足を止めた。  坂道の先に、一軒の日本家屋がひっそりと建っている。どうやら純粋な木造の平屋立てらしい。  壁は飴色になり、藍色の暖簾が掛けられた正面の玄関も、大きな引き戸で閉じてあるのが見える。  その脇で、一本の松の木が真冬の厳寒にも衰えない、青々とした枝葉を誇る。    今彼の佇む小道と、日本家屋とを結ぶ石畳の上に、一人の老人がいる。  しゃっしゃっ、と石の上を引っかくような音を立てながら、ショベルの老人は歩道の雪をせっせと除けている。  彼は、雪かきにいそしむ老人に、ゆっくりと歩み寄った。 「すみません」  青年の呼びかけに、ショベルの音が止まった。 「部屋って、空いていたりしますか」  白い息にまみれた彼の問い。  灰色の袢纏を着込んだ老人が、前屈みになった上体を起こした。  わずかに背中を逸らしてから、老人がシャベルを雪の山に突き立てる。 「泊まりだかね?」  老人が、年季の入った顔を青年に向けた。     
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