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となりとなり
俺は、鴻上タケル。
1ヶ月前、俺は死んだ。
誰かを助けて代わりに死んだとか、重い病に犯されてとかいう劇的な死ではない。
階段から足を踏み外して死んでしまった。意識を失い病院に運ばれ、その病院内で息を引き取った。
ただ、そんな突然の死だからこそ、悔いが残る。
俺は、生前、記者をしていたが、富山県のある学校を調べるため、妻の相手もしていなかった。
いや、その学校の調査のせいではないな……その前もその前も俺は、仕事のせいにしてアイツの相手をすることはなかった。
収入の安定しない俺のために、共働きで支えてくれた上、家事も全て任せていたというのに文句1つ言わなかったアイツ……
俺の一番の悔いは、アイツに恩返しができなかったこと。
俺が死んだショックからか、アイツは寝込んでしまった。
このままではアイツまで死んでしまう。
アイツを助けたい。
でも俺にはどうすることもできない。
この1ヶ月でわかったのは、俺は誰にも触れないし、向こうもこちらが見えない。
アイツが運ばれたのは、俺が死んだ病室のとなり。
思えば、俺のとなりにはいつもアイツがいてくれた。
俺は、それを当然と思って「ありがとう」の言葉も返さなかった。
1ヶ月前のあの日も、「いってらっしゃい」というアイツに何も返さなかった。
俺は、アイツを助けたい。
「ホントに助けたい?あんまりオススメはしないけど……」
俺の目の前に突然現れた少女。
俺のことが見えるのか?いや、それより俺の心の声が聞こえるのか?
「うん。普通の人には見えないし聞こえないけど。それよりホントに助けたい?……お兄さんが死んだのにまだこの世界にいるのは、魂の力……魔力が強かったから……その魂の力を彼女に渡せば、彼女は助かるよ。でも、そんなことすればお兄さんの魂は消えちゃう。それに彼女は……」
少女の言葉を完全に信用したわけではなかったが、俺は彼女に魂の力を渡すことにした。
となりでアイツが死にかけてるのに何もできないよりはマシだ。
これまでアイツ何もできなかった罪を……償いたい。
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