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「おまえはじきにわしの子を産むであろう」
男が素っ気なく言うと、女は長い髪の下に顔を隠したまま、男を見上げた。
「私の身体にゼオナレスさまの子どもが宿っているというのですか?」
「神の子として、たくましく、美しく、賢い子どもとなるであろう。
大切に育てるのじゃ」
言い終わった時、男はその背をすでに女に向けていた。
「子どもが二十歳になった時、首の下、両肩の中央に星の形をした痣が浮かび上がる。
わしの子、天界を支配する神ゼオナレスの子である証だ」
それきり、男の声はしなくなった。
男の気配はすでに部屋の中から消えていた。
男が外に出る音はまったくしなかった。
男がこの部屋に入って来た時と同じように。
女はなおも泣き崩れていた。
夜が明け、太陽が天頂に昇っても、涙は頬を流れ落ちた。
女がようやく顔を上げたのは、陽が暮れ、辺りが闇に包まれた後だった。
「たとえ神の血を引いていようと、私を捨てた憎きゼオナレスの子どもなど育てられようか。
いや、この世に産み落とすことすら出来ようか。
こうなったら、この命を絶ってやる。
わが身体に宿るゼオナレスの子どもの命とともに。
それが、それだけが今の私の唯一の願い。
ゼオナレスへの復讐・・・・・・」
女はひざまずいたまま、上を向いた。
その顔は恐ろしいものへと変わっていた。
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