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第1章
「どうして私を捨て置いて、他の女と夜をともにするのです?
ゼオナレスさまは私だけを愛するとおっしゃったではありませんか」
夜更けの寝室に男と女が居た。
床から上体だけを起こし、身体をひねって男を見上げる女の顔は、汗ばんだ長い髪に隠れ、蝋燭の灯りの下でも、はっきりと見ることは出来なかった。
だが、その声から、年がかなり若いことがうかがえた。
女が見上げる先には、見た者が途端に体を硬直させるような、威厳に満ち溢れた男の顔があった。
その長い髪や髭はすべて白く、背丈のみならず齢も女より遥か上、親と子、いや、それ以上の年の差があるように思われた。
この老齢の男の姿だけが暗がりの中でもよく見えたのは、男の全身から光が放たれていたからである。
神々しいとさえいえる光だった。
男の光に包まれた姿と、影となってはっきり見ることが出来ぬ女の姿とは、ひどく対照的だった。
2人の関係性、さらに2人の今後を暗示しているかのように。
「もう2度と私から離れないでください。
どうか、ずっとここに、私の元に居てください。
それが叶わないのなら、私も一緒に天界に連れて行ってください」
男と女、それぞれの相手への態度には、かなりの温度差があり、男は女を疎ましく感じているように見えた。
しかし、切羽詰まっている女は、それに気づいていなかった。
女はさらに身体を起こすと、男の腰のあたりに華奢な両腕を回し、すがりついた。
それでも、男の顔つきは変わらなかった。
「悪いが、それは出来ん。
わしは天も地も統治する天界の大神で、おまえはただの人間だ。
おまえと結婚することなど出来ぬのだ。
たとえ、お互いがそれを望んでいたとしてもな」
「いや、いやでございます。
離れたくありません」
女は男の言葉に納得しなかった。
「もう、これ以上、おまえと暮らすことは出来ぬ。
わかってくれ」
男の発する言葉の響きからは、女に対する愛情は、もはや微塵も感じられなかった。
女は男の体から離れると、顔を伏せた。
すぐに、すすり泣く声が聞こえてきた。
一方で、男はうんざりした顔を隠そうともせず、さらけ出していた。
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