月海月日和(つきくらげびより)

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 クリストフの目の前で、十五個の月海月の瓶とロープでつながれたバスが、それに吊られて宙に浮いた。  すっかり話を聞いたアールストンが、クリストフと共に、その横で目を丸くしている。 「こういうことだ、クリストフ。少しバスを横から押してみろ」  ディネに促された二人が少し指先でつつくと、バスは地面すれすれに浮かんだまま、横に流れた。  クリストフは息を飲んだ。  見えているものが信じられない。  バスが退()いたいたところには、その床面よりも一回り小さな面積で穴が掘られ、五十個の月海月入りの瓶が並べられていた。 「そんな……ずっと僕が暮らしていたところに、こんなものがあったなんて……」  そう呟くクリストフに、ディネが、バスも瓶も飛んで行かないように押さえながら答えた。 「エリッセルタルフは、いつかお前とあっちに行こうとしていたのかもしれんな。さあ、少し操り方を教えてやろう。難しいとは言ったが、一度覚えればどうってことはない。そっちの坊主にもな」  ディネが手早く、瓶とバスをロープでつないで行く。 「ねえ、ディネ。この街を人々が出たのは、いつ頃なんですか?」 「こぞって大移動したのは、俺たちがまだうんと若い頃だ」 「どうして、祖父は行かなかったのでしょう」 「さあな。俺と同じ理由だろう。故郷だから、知った人間がいるから、別れ(がた)いから、何となく、その他色々。つまり、理由なんてないのさ」 「この街の他の人たちは、あちらへ行こうとはしないんですか」 「行かんだろうね。向こうじゃ、人を傷つけると叱られる」  ディネが肩をすくめた。 「さあ、五十個全てバスとつないだぞ。このやり方を覚えておけば好きな時に旅立てる。ところで、さっき言ったように、満月なら向こうへ着くまではせいぜい一二時間だ。興味があれば、これからちょっと二人で行って見てくればいい。朝の風に乗れば帰って来られるからな」  アールストンが、小さな声で言った。 「僕もいいの?」 「お前さん一人くらい、まるで問題ないね」
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