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サアヤのバイト
「いや、別にどうこうあったワケじゃないの。…でもしちゃった、と言った方が正しくて…。それで相談に来たの」
「む~ん…。とりあえず、最初っから順を追って話してくれない?」
「分かった。夏休み前、友達に誘われて、テレビ番組の撮影のお手伝いのバイトをしたの」
その友達はテレビ局に親戚がいたらしく、そこから話しがきたらしい。
テレビ番組の内容は、アイドルとお笑い芸人達が、幽霊が出るとウワサの場所へ向かうという、実に夏らしい特番の内容だった。
サアヤと友達は、バスに乗って一時間ほどのロケ地に行った。
そこは心霊現象が起こるとウワサされる地域だった。
「行った途端、ちょっとイヤな感じはしたのよね」
サアヤは眼をつり上げ、クッキーをかじる。
「もうすでに殆ど住んでいる人はいなくてさ。過疎地もいいとこ。元は賑わっていた町だったらしいけど、交通の不便から人が遠ざかって行ったんだって」
今ではよくある話し。
交通が不便だと、どんな立派な建物があっても人の足は遠ざかってしまう。
一時、賑わった様子を見せても、長続きしないのが悲しいところだと思う。
「その町にはとにかく廃墟が多くって。病院やら学校やら、ガソリンスタンドにボーリング場まで。バブルが弾けた後、建物を壊すお金もなくて、そのまま放置よ」
「それは…マズイわね」
人が多くいた場所ほど、いなくなる時は始末をつけなければならない。
そうじゃないと、いろいろと良くないものが集まってしまうのだ。
「でも可哀想にさぁ。アイドルの女の子、霊感バリバリにあるコだったのよね」
クッキーをバリバリ食べながら、話を続ける姿は、あまり緊張感がないように見えるな。
「昼間っからそういう廃墟を巡らされて、イヤなモン、いっぱい見ちゃったみたい」
「でもそういう現場には、霊能力者の一人か二人は付くんじゃない?」
実際、わたしにも時々オファーが来る。
けれど夏場はイロイロと忙しいので、断っていた。
「うん。いたことはいたけど……」
彼女の表情は、失笑。
…つまり本物ではなかったのだろう。
そういうのも、また珍しくはない。
「それをまた女の子も気付いたみたいでね。ガタガタ震えていたな」
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