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 パシンッ… 「んん…?」 アイドルの女の子が、何かが弾けた音で眼を覚ます。 隣に寝ているサアヤは熟睡していた。  パシンパシンッ パンパンッ 音は目覚めてからも、続いている。 「えっ? 何?」 恐怖に顔を歪め、女の子は周囲を見回す。 明るい月光が障子戸から入ってくるだけで、薄暗い部屋の中。 他に何かがいる気配だけはするものの、まだ形を成さない為、見えなかった。 やがて壁にかけてあるハンガーが、ガタガタと動き出す。 戸は閉めているはずなのに、生暖かい風が顔を撫でた。 「ヒッ! いやぁああ! 誰かっ…誰か来てぇ!」 隣の部屋にはマネージャー達が泊まっていた。 けれど薄い壁越しには、何の音も声も聞こえない。 誰もが眠ってしまっていて、起きているのは女の子ただ一人だけ。 そのことに気付いた女の子は、その場で耳を塞ぎ、うずくまった。 電気が付いたり、消えたりの繰り返しを始める。 ―…ねぇ…。ねぇ…。 「っ!」 何かが自分の肩に触れ、声をかけてくる。 そこで女の子は意識を飛ばしそうになった。 ―だが。 「…うるさいなぁ、もう」 寝ているサアヤが、顔をしかめながら呟いた。 「静かにしてよぉ」 そう言いながら、自分の肩をポンポンと叩く。 すると―サアヤの体から黒い影がズズズッ…と出てきた。 ソレは耳も鼻も目もない、口だけの大きな黒い顔。 彼女の先祖が己の血筋にかけた【呪いと祝福】が実体化したモノ―だった。 ソレは女の子の背中の上を、一瞬にして通り、壁に着地した。  モギュ、ゴキュ、ゴリ…、ニチャ… 不愉快な水音が、蠢くソレから聞こえてくる。 そして女の子は気付く。 さっきまで自分の肩に触れ、声をかけていたモノがいなくなっていることに。 「まさか…!」 女の子は慌ててソレとサアヤを交互に見る。 月光に浮かび出されたサアヤの影が、女の子の体を横切り、ソレと繋がっていた。 ソレは何度か咀嚼した後、ゴキュリっと飲み込み、ゲフッとゲップをしたらしい。 そして影を伸ばしながら、廊下へ続くふすまの方に向かった。 ソレは締まっているふすまの間を通り、部屋から出ていった。
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