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人間の声が聞こえた。歳を取ったのが辛いというような話をしている。それから花がきれいだといった話になった。
植物に交じって人間の匂いも流れてくる。しかしそれは研究所で嗅いだ香水やコロンのような人工的な匂いではなく、人間と言う肉そのものの匂いだった。その匂いで口の中に唾が湧いたが、同時に動物という人間に対して、初めて恐怖感を覚えた。
小道の横の岩陰で足を止めて様子を探ると、人間がゆっくりと近づいてくるのが見えた。
3日ぶりに見る人間だった。懐かしい思いと緊張感で全身の毛が逆立つ。向かってくる人間が敵か味方か、チョコには分からなかった。
『やっぱり人間は大きい』
チョコはゆっくりと後退りした。茂みの中に全身が隠れてから、その人間たちを迂回して、更に北へ向かった。『あと二日の辛抱だ』チョコは自分に言い聞かせる。
ほんの少し北へ進むと、また人間の匂いがした。今度は少しだけ人工的な甘い匂いが混じっている。その匂いで、研究所の人間と同じ種類の人間かもしれない、と考えた。
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