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チョコの冥福を祈っても福岡の気持ちは晴れなかった。彼女は、生命科学研究所で沢山の動物の死を目の当たりにしたが、実験動物は人間と異なる存在なのだと割り切ることができた。しかし、話を交わしたチョコは、それまでの犬とは違う。チョコは犬であって、犬ではなかった。
生命科学研究所に勤めたこと自体がいけなかったのだろうか、と同じ疑問が何度も頭に浮かんだ。答えが見つからないので、その問いが消えることは無い。そして、涙があふれた。
「帰りは飛ばすぞ」
助手席にプチパイを置き、運転席に掛けた猪瀬が気合を入れた。水素エンジンの微動が車体を震わせた。
皆、来た時と同じ席に座った。福岡は、まだハンカチを握っている。
『チョコは、自分から好きな道を選んだのよ。あなたが泣くことは無いわ。第一、あなただって、明日にでも死ぬのかもしれないのよ』
プチパイが後部座席に移動し、福岡の膝の上に乗った。
『連れてきてくれて、ありがとう』
プチパイは誰にと言うのでもなく言葉にし、身体を丸めると眼を閉じた。
--おしまいーー
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