23人が本棚に入れています
本棚に追加
「光輝、海に入ってはダメよ」
夢子は、光輝の後を少し離れて歩く。生活保護の生活は楽ではなかったが、こうして息子とゼロ番街で過ごすのは、悪いことでもないと思った。
来月には息子が二歳の誕生日を迎え、ゼロ番街内の保育施設で預かってもらえる予定だ。おかげで川崎駅裏のスーパーマーケットでの仕事が決まった。その収入は、僅かな生活の足しにしかならないが、将来、息子に教育を受けさせるためには必要な現金収入なのだ。息子との幸せを守るために、出来ることは何でもやろうと決めていた。
「ママ、おじさんが寝てる」
光輝が声をあげた。
「えっ?」
夢子は、息子が指す異物をみつけた。最初は人間だと分からなかったが、次第にスーツ姿の男だと分かった。男は流木のように人工の砂浜に横たわっている。
夢子は全力で走り、息子を抱きかかえた。
最初のコメントを投稿しよう!