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谷岡は妻の佑未子とここに住みはじめて、もうすぐ10年になる。村田の小学校からの同級生で、街で暮らしていたころには村田の独立集落建設を支援していた。そんな谷岡が佑未子と恋仲になり、子供が出来てしまった。佑未子の両親は政治家で、娘が何のとりえもない中年男と結婚することに反対した。二人は駆け落ちし、山に入った。
「ジェニー、僕も君が、ここに移り住んでくれたらいいと思うよ。昔の人が言っただろう? 人はパンのみで生きるに非ず、って」
谷岡が言った。
「私は……やはり、母を置いてゼロ番街を出ることはできません」
「母親も連れてくればいい。村田が面倒見てくれるはずだ」
谷岡は村田の靴を見て笑った。
旧友の余計なお世話に、村田は機械の下で苦い顔をした。
「たくさんとれたよ!」
叫びながら元気にやって来たのは、佑未子と長女のミドリ、長男のソラだった。
手にした麻袋には50年ほど前から日本で繁殖した食用の虫が詰まっていた。ゴキブリの一種で、繁殖力が高い。高タンパク質、高カルシウムがうたい文句で輸入され、逃げ出したものが日本中で繁殖したのだ。集落ではそれを乾燥させて粉末にし、街の闇市の商人に売っていた。他にも山菜やイノシシ、シカを捕って現金収入にしている。ジェニーがそれらの商品の取次をやっていたのだ。
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