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しばらくすると、行く手を野良猫が邪魔をした。猫はフゥーと息をはき、全身の毛を逆立てた。その体はチョコよりも大きい。
チョコは、一歩、二歩と後退りして、猫との対決を避けた。
夕陽が沈むのを見てから岩陰に丸まって休んだ。研究所を出てから三度目の野宿だった。疲れた体にもかかわらず、眠りは容易に訪れない。遠くから聞こえる野良犬の遠吠えや、野良猫やイタチの会話に神経が休まらなかった。
『ボクはどうして研究所を出たのだろう』
夜の間、後悔の言葉が何度も頭をよぎった。富永やピート、朝比奈の顔を思い出し、プチパイの冷たい声が懐かしく思えた。
『カカオと一緒に行けばよかった』
それはもう一つの後悔だった。
『これから一人で生きて行けるだろうか?』
それは一つの不安だ。
陽が昇ってから、チョコは南の空を見た。研究所に戻ろうかと迷ったのだ。
その時「良い人を見つけて拾ってもらいなさい」という恩人の声を思い出した。恩人は、5日辛抱すればいいと言った。それなら、あと2日と少しだけ辛抱すればいいということだ。
チョコは恩人の言葉に勇気を得て歩き始めた。とにかく食べ物を見つけて空腹をいやそう。そしていつか優しい人を探そう、と……。
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