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チョコが匂いをたどっていくと、その人間は木の上にいた。3人の人間がそれぞれに太い枝に腰かけ、葉をむしり取っている。時々大きな声を出して笑い、「大きな栗の木の下で」と、歌を歌った。チョコも知っている歌だった。
自分がやって来た方角から足音が近づいた。先ほど岩陰から見た人間だった。彼らは「気をつけろよ」と木の上の人間たちに声をかけて、遠ざかっていく。
チョコは、2人の背中を追いながら、その先に人間の住む街があるのだろうと考えた。街に行けば食べ物にありつけるかもしれないと、期待が膨らむ。
熊笹の根元をかき分けて、ゆっくりと北へ進むと森は途絶えて低地にでた。その真ん中を小川が流れている。低地には建物が5棟、建っていたが、研究所の建物とは比較にならないほど小さくみすぼらしいものだった。一つの建物からは、食べ物の匂いもした。空っぽのお腹がグウと鳴った。
『慌てるな』チョコは自分に警告する。匂いにつられて建物に入ったら、どんな危険な目に合うか分からない。
『僕は、馬鹿じゃないんだ』
チョコは森のはずれの高台に立つ松の木の根元に腹ばいになった。そこから小さな集落の様子を探るつもりだった。
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