ゼロ番街

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羽田空港が良く見える東京湾岸に、川崎ゼロ番街と呼ばれる樹脂コンクリート製の人工島が造られた。島の内部は空洞で大きなプールになっており、海水が満たされている。島の上部には十棟の高層アパートが建築された。一つの棟には一千人の居住が予定されている。人工島には学校や商業施設も造られ、住民一万人規模の都市になる計画だ。 日本政府は2043年からゼロ番街という再開発地域を設置して、そこへ4月戦争による避難民や身寄りのない年金生活者、低所得者を集め、各種給付金のほとんどを食料品や日用雑貨などの現物支給に切り替えていた。 そうやって受給者がギャンブルや薬物に給付金を使うことを抑制するだけでなく、生活必需品の大量購入によるコストカットを実現し、社会保障費の削減を図って国家財政を再建するためだ。 ゼロ番街の建築は巨額の公共事業であり、内需拡大にあわせて若者の雇用に役立っていたから、一石三鳥といえた。おおやけにはされないが、現金給付から現物給付に切り替えることで、監督官庁には新たな部署が増え、権限と利権も増加して一部の官僚は太ったとも言われている。
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