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目の前には、木製の、今にも崩壊しそうというほどではないけれど、という具合の古い小屋があった。
ぎぃ、と腹に響く低い音を出す古びた扉を開いた先には、机と椅子一脚、それからタンスと食器棚な敷物、色の抜けた布団一式があった。
「水はさっき案内した井戸から組みなさい。食事は村民全員で取るから、その時には食事場へ集合すること。慣れてきたらあなたも当番に加わってもらうわ。衣服やタオルはそのタンスに入っているものを使いなさい。後は適宜質問という形でよろしく。じゃあ、とりあえず夕食の時間に呼びに来るから」
言うだけ言うと、宮野は一秒でも早くこの場から去りたいと言わんばかりに、足早に去って行った。
残された渡辺は、しばらく呆然と立ち尽くしていたものの、やがてとりあえず現状の把握を、とタンスや棚の中身を確認して回り、それからすることもなくなって床に敷いてあった布団の上に転がった。
首についていたロープの切れ端は村長宅で外され、今は何も首には何もないものの、若干違和感があるのか渡辺は首のあたりをさすりながら、天井をぼうっと眺めた。
どれくらいの時間がたったのか、体を揺すられて、渡辺は閉じていた目を開いた。
目の前には宮野のあきれた顔があった。
眠っていたらしく、半分ほど開かれている扉の先はすでに暗くなっていた。体を起こし、先に出て行った宮野の後を追いかけるようにして、渡辺は家から飛び出した。
どこからか鳥の甲高い鳴き声が響く中、暗い道を遠くの光を頼りに進んでいく。
途中、渡辺が木の根に足を引っかけて転ぶ場面があり、その度に立ち止まって振り返る宮野の目にはいら立ちが見て取れた。
焚火を囲むように並べられた丸太を半分に切っただけの椅子は、すでにそのほとんどが埋まっていた。残ったスペースに宮野と渡辺が座ると、夕食になり、しばらくお通夜のような雰囲気が続いた。しかし、渡辺が尋ねられた質問に少しずつ答えていくと、やがて新入りの人となりを理解したためか、そのうちにどんちゃん騒ぎが始まった。
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