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あっけにとられている渡辺をよそに、村民たちは酒を片手に盛り上がる。
酒は徒歩二時間ほどの距離にある町から購入するらしい。森でとれた山菜などから収入にはある程度余裕があるという。
それから、渡辺が村に訪れた際の村民の冷たい視線は、村のアイドル的存在である宮野が男を引き連れてきたことから、その相手に対する鑑定のまなざしだったらしい。
そんな話を、渡辺は酔ったせいか饒舌になった村民から聞いた。
そんなにぎやかな宴の時間はあっという間に過ぎ去った。
「明日から活動開始の予定だから、寝過ごさないでよ」
薪の明かりだけの薄暗い中でも分かるほど顔を真っ赤にした宮野に、同じく赤い顔の渡辺はうなずいて了解の意を示す。それに満足したからか、うんうんと何度も首を上下に振りながら、宮野は一言おやすみなさいと告げて渡辺に背を向けた。
家に戻った渡辺は、寝ようとしたタイミングでようやく集合時刻などを一切聞いていないことを思い出したが、宮野の家を知らない上になれない環境での初日という手前、どうにも行動を起こす気になれずそのまま眠りについた。
朝、井戸まで行って顔を洗って戻って来た家の前で迎えに来たらしい宮野と合流し、渡辺は樹海へと向かった。
「とりあえずあなたを一人で樹海をめぐってもらうとまた自殺しかねないし、それに一人では村にも帰れないだろうから、とりあえずしばらくは二人で行動するわよ」
渡辺が頷くと、宮野はふん、と軽く鼻を鳴らして先陣を切った。
十分ほど樹海を進んで渡辺が昨日訪れた桜の園に到着してからは、ひたすらその内側を歩き続けた。
昼頃になっても誰にも会うことはなく、とりあえず昼食にしようと、小屋がある開けた場所に移動して弁当の木箱を開いた。
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