旅の始まり

9/11
前へ
/82ページ
次へ
 * * *  十五号室の中は、思ってたよりは幾ばくかキレイだった。  床は畳ではなくフローリングで、掃除がされていないのか、靴跡や埃が溜まっていた。でも、寝具は見た目はきれいだった。  寝台といった感じのベッドで、簡素な台に、柔らかめの布団が敷いてある。人が二人は寝られそうな大きさだけど、一つしかない。 (あれ? もしかして、一緒に寝るの?) 「大丈夫ですよ。私は床で寝ますから」  私の不安を察したのか、風間さんはそう言って笑んだ。 「いや、いえ、良いですよ、そんな! 風間さんだって疲れてるのに! 私が床で寝ます! お金だって出してもらってるんだし!」  私が慌てて言うと、風間さんは驚いたような顔をしていた。  さすがにこれで汚い床に寝てもらうとか、罪悪感が半端ないわ。 「わかりました。じゃあ、一緒に寝ましょうか」 「え、一緒!?」 (いやぁ……。一緒はさすがに……)  でも、風間さんは私にまったく気がないわけだし。毛利さんならともかく、風間さんが私みたいな子供に手を出すわけない。それに、断ったら私が風間さんに気があると思われるかも知れない。 (そうなったら、魔王を狙われるかも……)  なんだか、胸が苦しい。風間さんに私自身を見てもらえないのが、なんだかすごく哀しい。  私はかぶりを振った。こんな感情はとっとと捨て去らなきゃ。 「じゃあ、そうしましょうか?」 「そうですね。ありがとうございます。じゃあ、ご飯でも食べに行きますか?」 「はい」  笑んだ私の頬が硬かったのは、気のせいだ。きっと。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加