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* * *
私達は一旦森の奥へ戻り、歩き出した。
クロちゃんは迷わずに森の中を進む。この土地を熟知してるみたいだ。
「ねえ、クロちゃん」
私は繋がれたままの手を軽く引っ張った。少し先を歩くクロちゃんが振り返る。
「なに?」
「クロちゃんって、この森良く知ってるの? さっき帰るって言ったけど、王都に住んでるの?」
「住んでるよ。一応住居を持ってるって程度だけどね。任務であっちこっちに飛び回ってるから、あんまり帰らないけど。美章では、三関以上の者には、国から王都に住居を与えられるからさ。しかたなく貰ってやったの」
しかたなくって! 生意気だなぁ。でも、クロちゃんらしくて笑えるわ。
「この森はさ、訓練の時に使ったことあるんだよ。まあ、ぼくはその時にはすでに指揮する側だったんだけど、上官がムカつく野郎でさ。ぼくにも参加しろって言って参加させらたんだよ」
「へえ」
でも、特別扱いしないっていうのは良いことなんじゃないのかな。
「そいつ、明らかにぼくにだけガンガン攻撃しかけてきやがんの!」
「ええ!? それってもしかしてイジメ……」
「そ。イチャもんつけて、ぼくだけ飯も食わしてもらえなかったし、夜営の時は交代なしで見張りやらされたしねぇ」
前言撤回。クロちゃんに一票!
その上官ムカつく。最低。
「ぼくって天才だから、やっかまれるんだよねぇ。特に軍みたいな序列のあるとこはさ。ま、上に上がっちゃえばなんて事はないんだけど。有能なやつって下にいる時が一番大変なんだよねぇ」
クロちゃんは少し大げさに、やれやれと手を広げた。
冗談っぽく言ってみせてたけど、大変だったんだろうな。
「おっ、あった!」
クロちゃんが小さく声を上げた。
目線の先を追うと、草陰に道が見えた。
ほっと一息つく。
やっと人間らしい道を歩けるわ。
その道は整備された道ではなかったけど、草が無く、人間が踏みしめてできたような細道に、私は心底安堵した。
道に出るとすぐに手は離された。
そのまま、森の中を歩くこと二十分弱。
私達は森を抜け、眼前には凛章の城壁が広がっていた。
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