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* * *
凛章の門は立派だった。
白く美しい柱に鳳凰のような鳥が彫刻され、葉や羽の模様がそれを強調させていた。
門の前には長蛇の列が並び、四人の憲兵にチェックをされていた。みんな一様に木の板を差し出している。
(あんなの私、持ってないけど……大丈夫なのかなぁ?)
不安になりながら待っていると、クロちゃんがこちらを向いた。
「大丈夫だよ」
一言だけ告げて前を向く。
(こ、心を見透かされてる気分……。もしかして、また顔に出てた!?)
「次の者!」
動揺してるうちに憲兵に呼ばれてしまった。
(どうしよう)
きょろきょろする私を置いて、クロちゃんがスタスタと歩き出す。慌てて私はクロちゃんを追った。
「入国証(ゲビナ)を!」
胸の鎧と腰の鎧だけを着けた憲兵が、槍を持ちながら私達を睨んだ。
(うわ、怖い)
「そんなの見せなきゃいけないわけ?」
「は!?」
憲兵が呆気にとられた声音を出した。
(そんな風に言って良いの!? 捕まっちゃうよ!?)
「何を言ってんだこのガキ! 良いから見せろ!」
憲兵は悪態をついて手のひらを差し出した。
「あれぇ? 良いわけ、そんな口利いて?」
「は?」
怪訝に眉根を寄せる憲兵に、クロちゃんはポケットから何かを取り出した。
それはポケットの内側に安全ピンで止めてあった金色のエンブレムだった。獅子の姿に羽が生えている。
それを外さすに、そのまま憲兵に見せる。
「それがなんだって言う――」
憲兵は言いかけて青ざめた。
「し、失礼しましたっ!」
勢いよく頭を下げて、焦りをあらわにしている。
(なに、なんなの?)
私はきょとんとしたまま、二人を見やった。
「ま、そういうことで通るよ。良いね?」
「はいっ! どうぞ、お通り下さい!」
クロちゃんはにやりと笑いながら、歩き出した。
深々と頭を下げ続ける憲兵を見ながら私は彼を通り過ぎ、ひそひそとクロちゃんに尋ねた。
「今のなんなの?」
「あのエンブレムは三関に与えられるものなの。だから驚いたんでしょ」
「へえ、なるほどね」
「将軍には国竜である華炎竜(カーヒュアン・ドラゴン)のエンブレムが渡されるんだ。門の柱にあったでしょ? あれ」
「え、あれって鳥じゃないの?」
「鳥見たく見えるけど、生物学上はドラゴンなんだってさ」
「へえ~」
国鳥ならぬ国竜か。
「それにしても、この世界にもライオンなんているんだね」
「は? ライ……なに?」
クロちゃんは、あからさまに眉間にシワを寄せる。
(あれ? 魔王の通訳通じてない?)
「えっと……ほら、ポケットのエンブレムの動物! あれって、獅子(しし)でしょ?」
「ああ。違うよ。これは――」
クロちゃんはポケットを裏返した。
金色のエンブレムが現れる。
「キメラだよ」
「キメラ?」
「ほら、尻尾が蛇になってるだろ?」
私はエンブレムを覗き込む。たしかに、よくよく見れば尻尾が蛇だった。
「本当だ」
「キメラは美章に生息してる獣だよ。凶暴で冷酷な性格だけど、狩の勇猛さから、勇猛果敢な人間に例えられる事もあるよ。お前はまるでキメラのようだなぁって。褒め言葉の一種だね」
「へえ……だからエンブレムに?」
「そ。ライオンってのはなんなのか知らないけど、獅子(しし)ってのは伝説上の生き物だね。キメラの生みの親だって言う人もいるけど、大昔にいたとされる生物だよ」
獅子が伝説上の生物? でも逆に、私の世界ではドラゴンの方が伝説の生き物だし……。季節も逆だし、伝説上の生物と現実の生物が逆。この世界と私がいた世界は何かと逆なことが多いのかも。
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