再会。

2/8
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
 * * *  私達は、蛙蘇から王都に向けて旅をすることになった。  騎乗翼竜での旅だから、三日もあれば着くらしい。    船を下りた直後は、布も被っていたから気づかなかったけど、千葉って寒い。  どうやら千葉は北国で、世界の中で一番寒い国らしい。なので、柳くんと私は防寒具を買って旅立つことになった。  蛙蘇の着物屋を毛利さんと覗いた。  柳くんは、ラングルの買い付けに行っている。  寒いんだから、もう防寒具を着ている毛利さんが行ったら良いのに。と、思ったんだけど、さすがに言わなかった。  千葉の防寒具は、いわゆる着物用のコートだ。  でも、豪雪地帯も多くあるためか、裏起毛になっている。  だから、見た目は普通の着物用コートと大差ない。    その起毛もちょっと特殊で、蛮天南(バンテナ)というドラゴンからとれるものらしい。  蛮天南は、通常の翼竜よりも高く飛ぶためか、体毛があり、羽も羽毛に覆われている。それがすごく暖かくて、千葉では重宝されているみたいだ。    だからか、コートもちょっと高い。  ただ、一回買えば、何十年も持つんだそうだ。  店内の中は、時代劇のような造りで、お店の人が奥から、幾つかコートを持ってやってきた。 (幾つもあって迷っちゃうなぁ。でも……)  ちらりと毛利さんを窺い見る。 (――この人におごって貰うって、なんかなぁ……)  借りが出来るようで、釈然としない。  でも、考えようによっては、利用してやれるわけで。  そう考えると、なんだかざまあみろというか、すっきりする。 「後で返してもらうからな」 「!?」  思わず振り返った。  すると、毛利さんは切れ長な瞳を少しだけ細めて、笑った。  見た事のない、悪戯っぽい笑みにドキッとしてしまう。 「むろん。貴様に金なんかないだろうから、カラダでな」 「――!?」  囁かれた言葉に、自分が赤面したのがわかった。  毛利さんはさっきの笑みがなかったみたいに、元の無表情に戻った。 「冗談だ。貴様のような小娘に興味はない」 (――なにをぉお!? この、この、スケベ野郎!)  前科があるくせに、良くもぬけぬけと! 小娘で悪かったわね!  憤慨する一方で、ほっとする自分もいたりして。 「それは、なんですか?」  毛利さんが手に取っていたマフラーに似ている布を目にして、私は思わず質問した。 「空を行く旅になる。これで鼻と口を覆わねば、飛んでいられん」 「なんでですか?」 「空気も風も上空の方が冷たい」  無表情の顔が、僅かに鬱陶しそうに歪む。 「はいはい。そんなことも知らなくてすみませんでした!」  私がむくれながら言うと、 「あら。まあ、お嬢さん凄いですねぇ」 「え?」  コートを持ってきてくれた中年の女性が、びっくりしたように言った。 「すみませんね。おばちゃんには、こちらの旦那さんの表情が、全然分からなかったものだから」  女性は、申し訳なさそうに慌てて言った。  それもそれで、失礼な気がするんだけど。  毛利さんをちらりと見ると、気にした様子もなく、相変わらずの能面だった。 「いえいえ。私もなんとなく思っただけで、勘違いかも知れないので」 「そうなんですか」  愛想笑いをお互いに送りあってから、私は布の方にも目を向けた。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!