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第009話 道中
森を抜けたアリアとエリクは、夜も更けた時刻だった為、その日は森の中で身を隠しつつ野営し、夜を明けてから進む事を決めた。
本当ならば夜の内に距離を稼ぎ、追っ手を完全に振り切りたいアリアを諭し、エリクから夜営を提案したのだ。
「俺はともかく、旅慣れしていない君は、夜間の移動で無理はできない」
「大丈夫よ、まだ足は動くもの」
「疲れきったところに、追っ手が来たらどうするんだ?」
「それは……」
「俺が戦えても、君が疲れていたら逃げる事も難しい。護衛としては、ちゃんと君に休んでもらいたい。いざという時には俺を捨てて、逃げる体力は残して――……」
「ちょっと待って。私、エリクを見捨てて逃げないわよ」
「し、しかし……」
「貴方を見捨てて逃げるくらいなら、貴方を私の騎士に召抱えて一緒に連れて帰るわ」
「えっ。その……俺、罪人扱いされているんだが……」
「そんなの、私がお父様達に我がままを言えば済むわ。そういうの、滅多にしないんだけどね。帝国は帝国で優秀な人は優秀だから、貴方を見たら一発で気付く人もいるでしょうけど。だったら素直に貴方の事を話して、こっそり召抱えるくらいの器量は、お父様やお兄様にはあるわよ。無いなら生涯ずっと、あの二人を蔑みながら恨みを込めて生きることにするわ」
「そ、そうか……」
「でも。さっきの話を進めると、最終的に私は馬鹿皇子と結婚させられる嵌めに合うから、それは本当に最後の手段。私の希望は、貴方と一緒に帝国からも王国からも逃げることよ」
「……分かった。なら、今日は休もう。しっかり休んでから、明日の明け方前に移動だ」
「はーい」
エリクはアリアの説得に成功すると、罪人扱いの自分を召抱えてまで生かそうとするアリアに目を向けつつ苦笑いをしながら野営の準備を行い、二人は森の中で休んだ。
そして次の日。
エリクの言う通り、明け方前に起床した二人は、森を出て草原地帯を歩みながら、北の港町ポートノースに向かった。
その道中に小さな農村を見かけた際に、アリアは食料と水を手持ちの金銭で買い、村の馬を購入できないか尋ねたが、その村で育てられた馬は既に買い手がおり、ある程度の成長をした馬は、この領地の領主に売る契約をしていたようだ。
そんな馬を売るワケにはいかないと、馬を育てている牧場主に断られ、残念がるアリアとエリクは、渋々と村から出て、北へ向かった。
その道中、エリクはふと話題を振った。
「そういえば、君はあの森まで、歩いて来たのか?」
「いいえ。途中までは馬だったわ。でも、馬が道中で倒れてしまったの」
「倒れた?」
「私が脱走用に買って用意してた馬だったんだけど、元々から年老いた馬で、首都からここまでの移動するのは無理だったのね。……その馬を看取って土魔法で埋めてから、なんとか歩いて森まで辿り着いたのが、数日前だった」
「そうか。それは、不運だったな」
「いいえ、むしろ幸運でしょう。だって貴方に逢えたもの、エリク」
「!」
「馬が若くて、無事に王国まで辿り着けたとしても、潜伏しつつ王国の貴族達を探りながら亡命先の貴族家を探して過ごすには、お金も乏しかったでしょうし。仮にすぐ亡命先を見つけても、キナ臭い王国内でローゼン公爵家の長女である私が亡命してきたら、荒れた挙句に人質として扱われて、最後にはヤバイ相手と結婚させられたり、最悪あの馬鹿皇子の下に送り返させる可能性も高かったわ」
「そ、そうなのか」
「そうなの。だからエリク、貴方にあの森で逢えて、本当に良かった」
そう微笑み伝えるアリアに、エリクは気恥ずかしさを感じて顔を逸らした。
今まで仏頂面だったエリクの表情の変化に、アリアは驚きつつもニヤけた笑いを浮かべた。
「何? エリク、照れてるの?」
「む、無駄なお喋りは止めよう。体力をあまり減らすのは、良いことじゃない」
「えー、もう少しお話しましょうよぉ」
そう歩きながらエリクに迫るアリアと、上を向いて歩く顔を見せないようにするエリクは、北港町を目指し歩き続けた。
その道中、凡そ五日間。
所々にある民家や農家の家を訪ね、旅に必要な水や食料と消耗品を得ながら、二人は北港町ポートノース手前の、検問所付近まで辿り着いた。
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