第013話 回復魔法

1/1
2952人が本棚に入れています
本棚に追加
/1390ページ

第013話 回復魔法

 案内された病室には、怪我人達がそれぞれの寝台に寝かされ、苦しむように呻く者の姿も多かった。  包帯を巻かれつつも血が滲み、血の匂いで満たされる部屋を横目に移動し、アリアは呟くようにマウル医師達に話した。 「酷いですね……」 「ええ。先月、厄介な魔獣が現れたそうで、この町に駐在していた傭兵や兵士様達が立ち向かい……。何とか魔獣は倒せたそうですが、死傷者が多く、怪我人も数多く出ましてな。その死者の中に、この町に居た魔法使い様も含まれておりまして……」 「軍経由で、新たな魔法師の手配はなされたんですよね?」 「勿論。その返事は届いたのですが、新たな魔法使い様が訪れるには、半年ほど掛かると……」 「そうですか。……軍の怠慢ですよね」 「そこまでは、申しませんわい。向こうには向こうの事情もあるとは、思いますので」  僅かに怒る表情を見せるアリアに、マウル医師は横目で見つつ微笑みながら諭した。  帝都から新たな魔法師を派遣するのに、半年もの時間を掛けるのは遅すぎる。  それをアリアは理解するが故に秘かに怒り、マウル医師も理解しているからこそ、若さを見せるアリアを諭したのだろう。  それをエリクは聞きながら、ただ黙ってアリアの後を歩いた。 「この部屋の者達が、重傷者達ですな」 「分かりました。早速、回復魔法での治療を開始します。欠損部位などの保管は?」 「はい。冷凍して保管しておる部位(もの)が幾つか」 「では、持ってきてください。私が繋げますので」 「分かりました」  アリアとエリクが案内された部屋は、ほとんどが体の一部を失い苦しむ患者の部屋だった。  先程の話しで何かを感化されたのか、アリアは患者の治療と回復を行う為にすぐに動き、魔法を施す為に杖を握った。 「お父さんは、私が治療する怪我人の包帯を外していって。包帯があるままだと、魔法の回復に邪魔になっちゃうから」 「ああ、分かった」  エリクにそう促すアリアは、手前の怪我人達から話し掛け、エリクに包帯を取らせていく。  その際に乱暴に包帯を剥がすのではなく、怪我に張り付いた包帯を繊細に剥がす動作に、内心で驚くアリアは、エリクが傭兵として一定の治療作業を学び、こういう作業に手馴れている事が理解できた。  始めの怪我人である男性は、右足が切断されていた。  魔獣との戦いで右足に重傷を負い、傷の酷さから切断を余儀無くされたらしい。  損傷の酷い切断された残りの右足は、マウル医師の判断で冷凍庫に保存され、解凍しつつアリアの前まで持ってきた。  その布に包まれた右足を受け取ったエリクは、アリアの指示を受けた。 「お父さん。その足を、その人の右足に近付けて」 「……こうか?」 「そう、それでいいわ。――……『再生の治癒(リジェネーション)』」 「!」  呟いたアリアの身体から仄かに白い光が放たれ、怪我人の右足に浴びると、切断された右足と怪我人の右足が繋がるように結びついた。  それと同時にアリアは、違う回復魔法を掛けた。 「『中位なる光の癒し(ミドルヒール)』。……これで、右足は繋がったわね」 「……お、おぉ。動く……無くなった右足が、動く……ッ!!」  切断された右足を繋ぎ合わせ、そして右足全体を治癒させた後に、怪我をしていた男性は右足の指を動かして声を漏らした。  この感動は足を失う喪失感を味わった者にしか、理解はできないものだった。 「あ、ありがとう!! ありがとうございます!!」 「良いのよ。それより、まだ無理に動かしちゃダメよ。接合させたばっかりだから、しばらく馴染むまでは無理に歩いたり走ったりは禁止。松葉杖を使って歩きなさい」 「はい、はい……!!」 「次の怪我人に行きます。用意してください」  怪我人の感謝の言葉を受けながら、冷静に回復後の助言を付け、次の怪我人の下に意識を向けながら、マウル医師に言葉を向けた。  それに従うマウル医師と若い男性医師は、次の患者の保存部位をエリクに渡し、またアリアの指示を受けながら治療を行う。  そうして部屋に居た十人程の重傷者達が、失った部位を再生させ、怪我の治療を終えた時には、その部屋に充満した絶望の雰囲気が、全く違うアリアへの羨望へと変わっていた。 「ありがとう、お嬢ちゃん。ありがとう!!」 「アンタがいなけりゃ、俺は、俺は……ッ」 「すげぇよ、本当にすげぇ……!!」 「いえ。これも帝国所属の魔法師の務めです。……マウル医師、次の部屋に」  そうした声を受けながらも、アリアは微笑みつつも冷静に、そして次の部屋へ向かう意思を見せる。  それをマウル医師は驚きつつ、アリアを呼び止めた。 「い、いいのですか? 既に何回も魔法を……」 「大丈夫です。使える限りは治癒させて頂きますので」 「よ、よろしいのですか?」 「大丈夫です。その為の魔法師ですから。お父さん、行こう」  そうアリアは言いつつ、若い男性医師に案内されるアリアは、次の怪我人達に向かい、部屋に入っていった。  その様子を見ていたエリクに、隣のマウル医師が話し掛けた。 「優しく、そして優秀な娘さんですな」 「そうなのか?」 「ええ。お若いですが、とても優秀な魔法使い様です。以前いた魔法使い様は、この部屋にいる半分の者も、一日では治癒しきれなかったでしょうな」 「そうなのか」  そう話すマウル医師の話を聞き、エリクは共に次の部屋に向かった。  そして夕暮れが訪れ夜に入る時刻には、アリアは重傷者の全てと、他にも痛みを重くする者達に回復魔法を施した。  約三十名の怪我人達を、アリアは数刻で癒し終わった。
/1390ページ

最初のコメントを投稿しよう!