かつての同僚

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それは、昨夜21時頃に遡る。 彼はわたしの勤務先の書店に客として現れた。 「この本、どこにありますか?」 聞かれて振り返ったとき。 お互いがお互いに驚いていた。 思い出すことさえ、つらい過去が…ぶぁっと頭を駆け抜ける。 どうして…。 嫌な偶然だと、動揺を隠しながら 「…こちらでございます」 案内してそのまま立ち去るだけだったのに… 「終わるのを待ってたんだ」 彼はわたしの心情など知りもせず。 にこやかに笑って言った。 平静を装って。 向かいのタリーズカフェで会って近況を話し合った。 2年前突然会社を辞めたけど、わたしは元気でやっている。 だから大丈夫だと、 それだけで…良かったのに。 「…わたし…何か言った?」 「いや、…何も」 「ならいいよ。…帰る」 「あ、紫織…」 「なに」 「また会いたいんだけど…」 心配するような瞳で見るヒナに、 わたしは唇をかみ締めて、 一瞬俯いて目も合わせず言った。 「…わたしは、…会いたくない…」 「そうか…。ごめん」 「ヒナのせいじゃないよ。…じゃあ」 「あ、ちょ…待って。紫織!」 ヒナは、何か言ってたけど…わたしは聞きもせず。 彼のマンションを飛びだして、夜明けの街を自宅へと急いだ。 …プレイボーイの知人いはく。 何かに悩んでいたり、不安や恐怖、絶望して苦しんでいる女ほど。 落としやすいものはないと言う。 以前にも、行きずりの男と一夜を共にした。
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