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三ヵ月が経ったある日。
オフだったわたしは、有楽町のデリカフェ近くにいた。
高架下のそのカフェは帝国劇場からほど近く。
地下鉄でやってくるというヒナと待ち合わせのため。
そこに向かっていた。
少し約束の時間よりも早く来てしまったわたしは、
陳列の並べ方の参考に、こんな時でさえも。
仕事を意識して書店の中に入った。
それがいけなかった…。
自分の店に足りないものは、他の書店で見つける。
そして補うのも必要だ。
いつもの癖で隈なくチェックしていると、華やかな女の子の声がした。
男といるのだろうか。
その声は、甘えを含んで無邪気だった。
無視して参考書欄に目を通そうと本棚の角を曲がった時。
わたしは、凍りついた。
「……」
その少女のそばにいた男が、他でもないヒナだったから。
こみ上げてくる涙…。
わたしは、…わたしは、バカだ…。
いつも、いつもこうして失いかけて、何が大切なのか。
手遅れになりかけてわかる…。
長い黒髪の女の子は、素直そうで。
ヒナの見つめる瞳はとっても優しい…。
見たくない!
その優しさは、…わたしにだけじゃ、…ないの?
好き、なんだ…。
今になって、はっきりわかった。
わたしが好きなのは、もう昌行じゃなくてヒナなんだって…。
でも…もう、だめなの?
「紫織?」
ヒナがわたしに気づいた。
その途端あふれた涙に、驚くヒナの顔。
「紫織、どうし…」
ヒナの問いかけにも答えないで、わたし、地下鉄の方へ歩き出してた。
「待って。紫織!」
白い壁が続くビルの角で、ヒナの手がわたしの腕を捕え。
そのまま誰もこない入り組んだ角で手首を掴まれ、強引にキスされる。
「…んッ! …んぅ…」
彼らしくない。
息もできないほどの、激しいキス。
「なんで逃げるんだよ…」
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