おとなりさん。

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「あれ、おとなりさんじゃん。久しぶり!!」  大学構内の廊下で時田がぶんぶんと手を振っている。三島は反対側の廊下を一人で歩いていた。手を振り返すと時田がこちらに駆けよってくる。 「最近大学でもアパートでも見ないからどうしたんだろって思ってたんだ。元気だった?」 「お蔭様で元気です。というか見なかったって、数日のことですよね」  時田が恥ずかしそうに鼻を掻くと「いや~そうなんだけど」と照れ臭そうに笑う。 「そういえばこの間言ってたオススメの本、忘れないうちに貸しときます」 「えまじで!!いや~あんがと!!おとなりさん!!」  時田は大袈裟に喜びながら本を受け取り、鞄にしまい込む。 「……そろそろ名前で呼んでくれてもいいんじゃないですか」 「え?」  思わず漏れ出た呟きに、時田が反応する前に遠くから「時田!!」と友達が彼を呼ぶ声が聞こえる。反対側の廊下では男女混合グループが時田を待っていた。 「すぐ行く!!それじゃおとなりさん、また今度!!」 そう言って時田が去っていく。時田がグループと合流すると「あれだれ?」と尋ねられていた。 「おとなりさん。本好きの人でさ、本貸してもらった」 「へえ、真面目そうな人じゃん。お前と趣味合うの?」 「ま、まあ前貸してもらった本途中で寝落ちしちゃったけど」  授業の開始を告げるチャイムがタイミングよく鳴る。それに慌てて時田が「おれ次授業だわ!!遅刻するうう!!」と言いながら足早に去っていく。 「いってらっしゃ~い……まるで突風みたいなやつだな」 「そうだねえ。あれ朱里ちゃんどうしたの?」 「いや、あの人どこかで……」 「授業でじゃない?講義でみたことあるよ」 「大学の外で見たことがあるような……」 「あれだよ、源氏物語の……」 「ていうか朱里ちゃんなら同じ……」  その言葉の続きを掻き消すように、さらに大きなチャイムが大学に鳴り響いた。
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