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「三島さん大丈夫だった?おれがいなくても大丈夫か心配で心配で。音鳴さんに頼んどいてあれだけど」
心配そうにあの憎たらしい女のことを話す時田に、俺は無表情で「三島さんは引っ越したみたいですよ」と告げる。
「え、まじで!?なんで!?」
「やっぱりストーカー被害で精神を疲弊していたみたいで。家族に相談したら家に帰ってくるようにと言われたそうですよ」
これは真実だ。俺の嫌がらせで三島は疲弊し、実家に帰っていったようだ。青白くやつれた三島の姿を思い出して、俺はほくそ笑みそうになるのをすんでのところでとどめる。
「そうかあ。おれ、何にもできなかったな」
人の好い時田は、心底申し訳なさそうな表情で落ち込んでいる。そんな優しいところが俺の好きなところであり、悪い虫を引き寄せるところでもあるので俺にとっては難しい問題だ。
「そんなことないですよ。時田くんが傍にいてくれたことによって、彼女も安心できた部分もあると思いますから」
俺の言葉に時田は顔を上げると「ありがと」とお礼を言ってくれた。俺はその言葉が好きで好きで仕方がなかった。俺だけに感謝の言葉を言ってもらいたい。
「……そういえば、時田くん、単位はちゃんと取れました?」
時田はぎくっとした顔をすると目を泳がせながら「ま、まあまあ」と言った。
「聖関学園は不真面目な生徒が多いですからね。ちゃんと卒業できるように頑張ってくださいね」
「わかってるよ。音鳴さんも先生で大変なんだろうけどおれも大変なんだから」
聖関学園で非常勤講師をしている俺は、大学でも時田を観察しているときがある。時田は友達が多く好かれやすい。そいつらを排除したくてしょうがないが、それは無理なことだともわかっている。
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