おとなりさん。

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「け、けどまたおれの隣の部屋開いちゃったなあ。いつもおれのお隣さんって音鳴さんだけだよな」  話を無理やり変えようと時田が不思議なことだというように首を傾げる。それは当たり前だろう。隣部屋は空き家にしてくれと俺が親族の大家に言っているのだから。けれども今回大家が俺の言いつけを破って住居人をいれ、しかもその女が時田に色目を使った。あの性悪女と時田はもしかしたら付き合っていたかもしれないと考えると背筋が寒くなる。もっと監視カメラの台数を増やして俺が時田を見守ってかないといけないなと決意を新たにする。 「お隣さんの音鳴さんってややこしいですね」 「おれも言っててそう思った」 「だから俺の名前下で呼んでくれてもいいですよ」  えっと時田が驚いた顔をする。そしてもごもごと口を動かしていたかと思うと意を決した表情で「……亨、さん」と下の名前で呼んだ。 「俺の下の名前、憶えててくれたんですね」 「え、いやなんか、それは」  顔を真っ赤にして時田は「そ、それじゃあ!!」と自分の部屋に入っていった。
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